数馬酒造では、ユニークな働き方をしているアルバイトスタッフがいます。それは「自分の事業を持ちながら、週に1日だけアルバイトとして酒蔵で働く」というもの。2024年7月に入社し、週1回の勤務体制で配達や営業部の補助作業を担っていただいています。
今回のコラムではそのスタッフにインタビューを行い、数馬酒造での働き方や自身の事業への影響など、新しいキャリア形成の形をご紹介いたします。
数馬酒造との出会い。アルバイトを始めたきっかけ
今回お話を伺ったのは、能登にIターンをした古矢さんです。お祖父様が「ケロンの小さな村」という自然体験ができる施設を運営されていて、その村を事業継承するために能登へ移住されました。
「ケロンの小さな村」は能登町の山あいにある小さな谷に、“みんなの憩いの場”として2006年にオープン。豊かな自然に触れ、森林浴で和み、カフェで手づくりピザを楽しめると、週末には能登以外からもお客様が集まる人気のスポットとなっています。

古矢さんが東京から能登へ拠点を移した矢先に能登半島地震、奥能登豪雨がありました。「ケロンの小さな村」も大きな被害を受けましたが、懸命な復旧作業を行い、2025年秋現在では多くのお客様をお迎えできるほどに復活しています。
数馬酒造との出会いは、そんな復興途中のことでした。
事業を継続すべく、当時はパンの製造、移動販売をされていました。その時に配達先のひとつとして数馬酒造があったのです。
「ケロンの小さな村」の被害状況を知っていたことから、何か力になりたいと思っていたこと、また何より古矢さんの誠実な人柄と素敵な笑顔に惹かれ、弊社から「一緒に働きませんか?」と声をかけたことが始まりです。当時のことを古矢さんはこう振り返ります。
古矢さん「数馬酒造は地域に密着して、地域のために貢献したいと活動する会社だと以前から感じていました。その姿勢が『ケロンの小さな村』にも活かせるのではないかと。実際に見て学びたいと思ったんです」
地域との関わり方を学びたいという想いが数馬酒造で働くことを後押ししました。さらに自分の事業を継続しながらアルバイトとして働けることは、古矢さんにとっても渡りに船だったのかもしれません。
単なる収入源ではない、週1回のアルバイトがもたらしたもの
数馬酒造では週1回勤務いただいています。地元を中心に飲食店様や酒販店様へ商品を配達する仕事を担い、時には製造部のヘルプに入ることもあります。社外のお客様と接することが多い職種ですが、持ち前の明るさとコミュニケーションの高さを発揮し、今では数馬酒造に欠かせない一員です。
古矢さん「数馬酒造でのアルバイトは単なる収入源のひとつではありません。日頃は経営者として自分の事業を運営していますが、ここではプレーヤーです。立場が変わると視点が広くなり、経営者として自分の事業に持ち帰られる気付きも増えました。同世代の方もいますし、心がリフレッシュするというか、単純に楽しいんです」
実際に働いてみて感じたのは、数馬酒造は「優しい人が多い会社」だと言います。
古矢さん「『ちゃんと休憩した?』とか、『おやつ置いといたよ』といつも気遣ってくれます。まるで家族みたいに(笑)」
また社員の特徴としては、一人ひとりの責任感が強く、まじめ。仕事に対して熱心に取り組む姿勢を感心するとともに、自身も刺激を受けたそうです。
そして、自分の事業では出会えない人たちとのご縁が広がり、以前より町の人の顔が見えるようになり、能登がもっと好きになったと嬉しそうに話してくれました。

経営を学ぶ時間も。社長との「壁打ち」でステップアップ
入社から一年経った今では、古矢さんの出勤日に社長と「壁打ち」の時間を設けて、定期的に経営について学ぶようになりました。
アイデアや課題を第三者に話し、考えを整理・ブラッシュアップする「壁打ち」の時間は、古矢さんの事業の進捗を共有したり、相談したり、学んだことをアウトプットする場です。
古矢さん「アウトプットすることを前提に物事を考えるようになり、行動の速度が上がりました。数字や理論に基づいて経営を語りあえる機会はなかなかないので、とても貴重な時間です。時には厳しく質問されることもありますけどね(笑)」

この社長と経営を学ぶ時間が自身を大きく成長させ、事業の業績も向上したそうです。
こうした働き方はとても珍しいケースながら、可能ならば選択肢の一つとして強くおすすめしたいと古矢さんは言います。
古矢さん「アンテナが広がり、人生の主体性が身につきます。今後のキャリアを考えると、必ず役に立つと確信しています」
新しい働き方が未来を切り拓く。能登の経営力を高める
数馬酒造では持続可能なものづくりを目指して、「あらゆる人財が活躍できる多様性のある労働環境を構築する」ことに10年以上前から注力しています。
じつは古矢さんのように副業的な働き手は初めてではありません。過去には観光業や農業従事者の方が閑散期に就業されたこともあります。2025年9月現在でも、副業として週に数回勤務の方は古矢さん以外に2名いらっしゃいます。こうした働き方は今後も増えると予想しています。
社員の「働きやすさ」を追求しながら、「新しい働き方」を受け入れ、能登に新しい人の流れをつくり出すことは、私たちの目指す将来像のひとつでもあります。
また古矢さんの入社によって、若い世代との繋がりが増えました。
経営理念である「能登を醸す」を実現するには、能登で挑戦する仲間や若い世代の力が必要不可欠です。さらには数馬酒造のミッションを「酒蔵の領域を超えた挑戦で、能登の魅力を高める」へと2025年に改めてからは、地域の次世代の経営力を高めることの重要性を一層感じています。ですから「一緒に働きながら経営を学ぶ場」を設けることも意義があり、すべては「頑張ろうとする方には力を貸したい」という想いが根底にあるからです。
これからも数馬酒造は、能登で挑戦する人に広く門戸を開き、共に学びながら、共に能登の未来を創っていきたいと考えています。