― 酒造りの期間は、蔵に半年間泊まり込む
― 早朝から深夜までつきっきりになって、麹(こうじ)の世話をする
日本酒業界にはこのような厳しい労働慣行が当たり前のように存在していました。実際に私たちもかつては、季節雇用の蔵人さんたちによる、泊まり込みでの酒造りを続けていました。
しかし現在では、醸造チームの社員は原則として、8:30出社〜17:00退社の実働7時間という働き方を実践しています。※休憩として午前15分、昼60分、午後15分を設けています。
さらに、これまでシフト制だった勤務日を廃止し、完全週休2日制(土日祝休み)に切り替えました。加えて、一人あたりの平均残業時間は「月1.5時間」です。※2025年度実績
なぜ、私たちは業界の常識であった「泊まり込み」や「長時間労働」を廃止できたのか。そして、なぜそうする必要があったのか。今コラムにて、醸造チームの働き方についてお話しします。
改革の原点は「自分がされて嫌なことはしない」
醸造現場の働き方改革は2015年から始まりました。これまでの季節雇用の杜氏制度を廃止し、通年雇用の社員による酒造りへと体制を一新したのです。
その際、私が強く心に決めていたのは、「自分がされて嫌なことは、社員さんにもさせない」という考えです。もし自分がその立場だったら?「家族と離れて、半年間、蔵で生活してくれ」「早朝から深夜まで働いてくれ」と言われたら、どれだけ情熱が持てる仕事であっても、長く続けられるかは分かりません。自分自身が長期的に歓迎できない働き方を、伝統だからといって社員さんにそれを強いることはできない。それが改革の原点でした。
人にやさしい環境は、お酒にとっても良い環境につながる
そしてもう一つ。先のコラム『《社長レポート》数馬酒造の採用活動において「未経験者」を重視する理由』でも触れましたが、価値観(ベクトル)×コンディション×能力(スキル)の掛け合わせをパフォーマンスの要素とした時に、持続可能な酒造りを実現するためには、能力(スキル)以上に、価値観とコンディションこそが大切ではないかという仮説が頭にあるため、最高のコンディションでなければ、最高のパフォーマンスは発揮できないと確信しているからです。
酒造りは繊細な感覚と緻密な判断、そしてチームワークが求められるクリエイティブな仕事です。もし造り手が睡眠不足だったら、疲労が蓄積していたらどうでしょうか。思考力が低下して小さな変化を見逃したり、イライラしてコミュニケーションにも悪影響を及ぼすかもしれません。結果として、お酒の品質が低下してしまう可能性もあります。どんなに高い技術や豊富な経験があっても、コンディションが良くなければ、本来の力が発揮されにくいと考えています。
だからこそ、早朝深夜の作業や泊まり込みを廃止し、週休二日制を導入しました。これらを実現するために、最新の醸造機器への設備投資や作業工程の見直しも徹底しました。ソフトとハードの両面から、社員が心身共に健康な状態で酒造りに向き合える環境を整えたのです。よりおいしいお酒をお客様にお届けし続けるために、私たちにとっては必要な変化でした。

余暇が感性を育み、心の豊かさが酒造りに還ってくる
残業をせずに定時で帰り、休日はしっかりと休む。家族との時間や趣味を楽しんだり、あるいは能登の美味しい食材を堪能したり、また能登の自然を満喫したり。それぞれにプライベートの時間を充実させています。
働き方を変えて生まれた余暇の時間は、造り手のコンディションアップにつながりました。醸造現場の雰囲気は以前に比べて柔らかく、改善提案も活発に上がるようになり、結果として酒造りのパフォーマンスに良い影響を与えていると実感しています。楽しみながら働き、働きながら楽しむ。私たちが大切にしている行動指針の一つです。
さらに、ここが能登であることも重要です。能登の風土や自然、文化を肌で感じることで、造り手の感性は一層豊かになります。能登で暮らす私たちだからこそ醸し出せる味わいを通して、能登の魅力を高めることができる。それが私たちが挑む「能登を醸す」ということです。
良質なチームワークを築きながら健やかな心身で最大限の成果を出し、暮らしの中でもまた心を満たす。そんな働き方を、大切にしていきます。
