この度の地震に際し、たくさんの温かいお心寄せを頂きまして心より感謝申し上げます。
同じく被災なさった皆様にはお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧とご安全をお祈り申し上げます。
おかげさまで皆様からの応援を頂きながら復興への道を歩むことができております。
その様子をレポートとして綴ってまいりますので、ご覧いただけましたら幸いです。
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●2024年5月29日
車多酒造様の委託醸造品の蔵出しが始まりました。能登の契約農家様に作っていただいたお米をお渡しし、車多酒造様の蔵にて日本酒を製造していただき、弊社商品として販売させていただく【委託醸造】の取り組みです。商品名は「竹葉 能登を醸す in 車多酒造 百万石乃白 特別純米」と名付けました。
他の酒蔵様に委託して日本酒を製造していただくことは、弊社としては初めてのことでした。自社で製造をするために能登の農家さんに依頼したお米の全量を、自力では日本酒にすることが叶わなくなり、そのことで農家さんの今年の米作りに影響があってはいけない。その思いから委託醸造に踏み切ることにしました。決断は2月初旬だったと記憶しています。
その頃は自分たちの酒造りについても課題が山積している最中でした。委託醸造についての有り難いお声掛けを頂きながらも、委託先の酒蔵様のご負担を思えば、簡単な話ではありません。そして、自社で醸造していない商品を、我々が「竹葉(ちくは)」と名乗ってよいのだろうか。造り手として置かれている現実への不甲斐なさと悔しさと、有り難さが入り交じり、少なくない葛藤を抱えていました。
地震発生直後の1月、タンクに放置されていたもろみを救出していただいた時は、自力ではまるで何もできない状態でした。それゆえに、差し出されたご支援の手を素直に握り返すしか成す術がありません。極限の状態だったと思います。県内外の酒蔵様に多大なるお力をお貸しいただき、自社の蔵内に残ったすべてのもろみを各酒蔵様で搾り上げていただき、日本酒にすることができたのです。そうした中で、重ねてこれ以上のご支援を頂いてよいのだろうか。そんな考えもよぎっていました。
複雑な心中を納得させてくれたのは「能登を醸す」という私たちの経営理念でした。委託醸造で“能登”のお米を、石川県内外の酒蔵様と協力して共に“醸す”ことは、持続可能なものづくりのためにも、今の私たちにとっての「能登を醸す」だろう。皆様のお力をお借りして出来る、今年ならでは味わいの「竹葉」と言えるだろう。「醸しのものづくりで能登の魅力を高める」という使命を、皆様と一緒に叶えていくことに違いはありません。そう思うと、抱えていた葛藤や不甲斐なさは、まるで小さくなってどこかへ飛んでいき、ただただ有難さと心強さだけを感じるのでした。
車多酒造様で醸された「竹葉 能登を醸す in 車多酒造 百万石乃白 特別純米」の製造にあたっては、能登産の酒米「百万石乃白」と、麹や割り水の歩合を記した配合表、品温の経過簿をお渡して、ご進行いただきました。車多様とはかねてから石川県酒造連合組合を通じた活動でもお世話になっております上、岡田杜氏とは弊社醸造責任者が能登杜氏組合を通じて交流があったことから、互いの蔵の味は旧知とも言える関係性がありました。お胸を借りるという言葉そのままに、全幅の信頼をおいてお任せさせていただきました。
仕上がった日本酒は美しいふくらみと清らかさを携えたきれいな味わいになりました。その中でも車多様が何度もおっしゃる「数馬酒造らしさ」を尊重して醸してくださったことがひしひしと伝わり、大きなお心と高い技術力への尊敬の念とともに、とめどない感謝が湧き上がります。
●2024年5月31日
この日はいよいよ昨年継承したばかりの梅畑の草刈りに取り組むことになり、隣町である珠洲市の若山地区へ向かいました。珠洲市は能登半島地震の震源地でもあり、当日は震度6強の揺れに襲われた被害の甚大な地域です。長引く断水も深刻で、若山地区の通水は5月中旬のことでした。珠洲市に向かう道中も、その爪痕がそこかしこにあり、被害が目の中に飛び込んできます。農地管理でお世話になっている農家さんとはお手紙やお電話を通してお話はしていましたが、お変わりのないお元気な姿にお会いできて、安堵で視界が滲みました。梅の木畑には幸い、大きな地震の影響はありませんでした。
本来であれば月に一度の下草刈りをしているはずが、冬から手つかずのままです。覚悟はしていましたが、自然の力はすごい。雑草は梅の木を見つけるのが難しいくらいに生い茂っていました。おまけに地震と雪のせいもあって、折れた枝の多いこと。それでもその先に実をつけているのですから梅の木の強さには心底驚かされます。折れかかった枝にすずなりに実をつける梅の木から、多少のことではへこたれないぞと声が聞こえたようでした。
大人5人、2日間かがりで草刈りを済ませ、次は6月下旬から始まる収穫期に会いましょうね、と手を振りました。梅の実の収穫期、そして地元の大切な祭礼である「あばれ祭」が重なる、慌ただしいシーズンが足音を立てて近づきます。待ってはいてくれない季節が巡り、それに突き動かされるように手も足も動かしています。きっと今の私たちにはそれが良いのかも知れません。
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皆様からの温かいご支援、励ましに心から御礼申し上げます。
皆様もどうかご安全に平穏でありますように。
これからも日本酒をお楽しみいただき、応援いただけますと大変有り難く存じます。