醸しコラム

Column

蔵人が綴る|責任醸造

2020.04.20

こんにちは。蔵人の又木です。
今回は弊社で取り組んでいる「責任醸造」についてご紹介いたします。

■責任醸造とは?
弊社では数年前から、醸造課社員1人ずつにタンク1本の仕込みを任せる「責任醸造」の取り組みを行っています。1人1タンクの醸造責任者になるということで「責任醸造」です。
酵母や酒質設計の選定から始まり、酒造りにおける一連の工程を1人で行います。もちろん全てを任せるのではなく、醸造責任者の確認や他の社員と意見交換をしながら進めていきます。
通常は精米・原料処理、醪管理や上槽といったように、それぞれメインに受け持つ担当が分かれていますが、酒質設計から仕込みまでをひとつながりで経験し、普段とは違う学びを得ることができます。

■私の責任醸造
責任醸造初年度は能登産五百万石を60%まで磨き、6号酵母を使用した純米酒を先輩社員と仕込みました。
どのような酒質が良いかと打ち合わせをする中で、「食中酒として飲んでもらいたい」「食事に合わせやすい酒」という方向性が決まり、酸度を高く濃醇な味わいのお酒に挑戦しました。
自分自身分からないことばかり。先輩に頼りきりで、遅い時間まで先輩や醸造責任者と話し合いながら進めていったことを覚えています。根気強く付き合ってくれた先輩には本当に感謝しています。

2年目の昨年はついに1人で取り組みました。
低精米酒に興味があり、能登産山田錦を88%まで磨き、1401号酵母を使用しました。低精米の酒米はタンパク質や脂質が多く含まれ、これらが旨味や雑味になるといわれていますが、お米本来の味わいや旨味をどうにか引き出せないかと考えました。


しかしながら、低精米自体が初めてで、洗米の吸水や麹(こうじ)作り、酒母・醪の管理など、社内においてもこれまで造られてきたお酒のパターンと違い、品温や発酵の管理がとても難しいものでした。
数々の苦労の甲斐あって、蔵開きの特別販売で完成したお酒をお客様に飲んでいただき、「美味しい」とおっしゃっていただいた時はやはり嬉しいものでした。

■私の醸造哲学
数馬社長からの言葉に「醸造哲学を持て」というものがあります。これは酒造りの中で自分なりの考えや理論を持てということですが、自分の中の“それ”は「能登らしさ」とは何なのだろうということでした。
例えば、個人的に能登は自然が豊かな土地だと思っていますが、そのままの土地を味わってほしい、農家さんのお米をあまり削らずに届けたいという思いから、低精米が1つのキーワードでした。また、能登は食材も新鮮で美味しく、そうした食事と一緒に味わっていただきたいという思いで、食中酒であるということもキーワードです。
ただ、自分自身こうした哲学はまだまだ考えていかなければいけないと思っています。それはいかにお酒の中に、その土地や風土、歴史や人などといった資源や情報を付加していくのかが求められていると感じています。また、付加されたものをお客さんと共有し、共感し、お酒を飲むことで能登の情景が浮かぶようになればと思います。


■そして、今年
3年目を迎える今年度の責任醸造は、つい先日上槽を終えました。
醸造哲学という話をしましたが、一方でお酒造りの基本を学ぶことも必要不可欠と感じます。そうしたことから今年度は、酒米は五百万石を、精米歩合は弊社の普通酒「能登上撰」と同じ67%精米、10号酵母を使用した純米酒を仕込みました。
10号酵母は生酸菌(酒母や醪中で酸を生成する細菌の総称。その大部分は乳酸菌)が少なく、吟醸香が高いことが特徴です。醪の経過は低温管理で長期発酵に適しており、ゆっくりと発酵させることできれいな味わいのお酒になります。醪の状態も元気に発酵しており、香りは杏仁豆腐のような香りや、味わいや醪の状態もだんだんと変わっていく様子は見ていて面白いです。成分値を見ながら醪の温度管理を行ない追水などの操作を行います。これは醪の健全な発酵を補助するため、醪に水を加え酵母によるアルコール生成を調整する作業です。
搾った直後はほのかにグレープのような爽やかな香り、味わいはスーッとした綺麗な口当たりでキレが良くやや辛口の印象でした。今はまだ搾ったばかりの味ですがその後落ち着いてきた状態でどのように変わってくるのかも楽しみです!

醸造責任者からは「現場から学べ」と言われます。
経験や知識も浅く、教科書を参考にすることは多いですが、現場での発酵の状態や、香りや味、分析値の変化などは教科書には載っていません。今回の責任醸造でも、細かいことから大きなことまで失敗もありますし、予想とは違った結果になることもありました。そうした中で、その原因や要因を整理し、自分がどのようなお酒を造りたいのかという哲学を含めて取り組んでいきたいと思います。

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