醸しコラム

Column

能登を醸す|数馬酒造 復興レポート6 5/3~5/29

2024.06.05

この度の地震に際し、たくさんの温かいお心寄せを頂きまして心より感謝申し上げます。
同じく被災なさった皆様にはお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧とご安全をお祈り申し上げます。

おかげさまで皆様からの応援を頂きながら復興への道を歩むことができております。
その様子をレポートとして綴ってまいりますので、ご覧いただけましたら幸いです。

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●2024年5月7日
能登の米を用いて共に「能登を醸す」委託醸造のため、岩手県盛岡市の赤武酒造様に、弊社社長と醸造社員がお邪魔させていただきました。
特別な思いで岩手に向かったのは、かつて赤武酒造様に勤めていた経験のある弊社の醸造社員でした。特別な想いは赤武酒造様も同じだったようで、8年ぶりに彼女の声が聞こえるやいなや、赤武酒造様の奥様が飛び出すように駆け寄り、抱きしめてくださったそうです。皆様の心尽くしの歓迎を頂き、涙と笑顔がごちゃ混ぜになりながら、胸いっぱいの再会を果たすことができました。

赤武酒造様は東日本大震災で津波による壊滅的な被害に遭われました。二年後に盛岡市に新しい蔵を再建なされ、今回伺った弊社社員は当時、赤武酒造様にて復興の時間を共に歩んできた一人でした。結婚を機に能登へ移住し、子育てに奮闘しながら、数馬酒造の仲間となって4年になります。「故郷を離れても、日本酒の仕事をしていれば、きっと繋がっていられる。いつかまたみんなに会えるかもしれない。」と密かな願いをずっと胸に温めていたそうです。その願いがこのような形で叶うのは複雑な気持ちですが、震災で暗くなった気持ちを灯す希望の光となりました。当時一緒に酒造りをした仲間たちと共に酒造りに取り組める喜びを噛みしめながら、3日間、心を込めて醸造作業に参加させていただきました。作業の合間に、岩手県から能登にいる私たちに、明るい様子で知らせが入ります。私たちも一緒にそばにいるような気持ちになりました。
赤武酒造様にて
また、古舘社長からは東日本大震災後の復興までの歩みについて、貴重なお話を頂きました。ご経験があるからこその深い言葉と温かい労いは、今の私たちにとって何よりも心強い励ましです。一度は諦めかけたとおっしゃる言葉からは想像もつかないほど、めざましい復興を成し遂げられ、その姿は希望そのものです。どこまでも懐深く迎え入れてくださり、感謝の想いが募るばかりです。
赤武酒造様にて
●2024年5月9日
能登半島地震から4ヶ月後の4月に再開させた酒造りにおいて、初めてとなる上槽が行われました。醸造責任者の栗間が「先代と、神棚にどうぞ。」と、搾りたてのお酒を運んで来てくれました。例年、酒造りを始めた一本目の搾りたてをお供えするのと同じように、今年初めての新酒を差し上げました。たくさんの力で見守っていただいたおかげで、無事に酒造りに取り組むことができました。心からの感謝とともに嬉しい報告をいたしました。
地震後初めての上槽
なんとか再開までこぎつけた酒造りは、おかげさまで順調に進んでいます。
釜場の隣に急ごしらえした冷蔵機能のあるコンパクトな仕込み蔵にも、徐々に慣れてきました。
醸造責任者の栗間に地震発生からこれまでを振り返り、思いを尋ねると「たくさんの方に頑張れと言ってもらえた。当時は内心では酒造りへの前向きな気持ちが追いついておらず、あの時に半ば無理やりにでも背中を押してもらえたことが、今思えば、とても有り難かった。そうでなければ、今頃になってもおそらく何もできていなかったと思う。ここに立てているのはたくさんの方々からのご支援があったから。」と話してくれました。その通り、先が見通せない中でも、とにかく「酒造り」に向かっていくことで、少しずつ心が落ち着き、視界が拓け、日常を取り戻していけたのだと思います。

異例の4月から始めた酒造りでしたが、仕上がった日本酒は、きちんと私たちの知っている、いつも通りの表情を見せてくれました。ほっとしたという言葉に尽きます。

酒造り再開に辿り着くまでに、ずっと頼りにしてきた言葉があります。発災直後に宮城県新澤醸造店の新澤様がくださった「まずは酒造りだよ」という一言です。その言葉を反芻しながら、傷ついた建物を後回しにしてでも「とにかく、酒造りに向かおう」と、ひとつひとつ歩みを進めたからこそ、皆の心を酒造りから離さずにいられたのだと思います。蒸気が上がる酒蔵の中できびきびと動く頼もしい醸造社員らの姿と、栗間の清々しい笑顔を見て、また深く感謝を刻みました。

●2024年5月20日
弊社のフラグシップ商品である「竹葉(ちくは) 能登純米」の上槽を行いました。
搾りたての原酒の香りや色を確かめる醸造責任者

●2024年5月29日
「竹葉 能登純米」の瓶詰、ラベル貼りを行いました。
地震後初めての自社製造による日本酒の出荷となります。能登の復興には⾧い時間がかかりますが、復興への決意と言える能登の日本酒の第一歩です。
「竹葉 能登純米」の復活

委託醸造先の皆様からも続々と酒造りの進捗について知らせを頂きます。皆様と一緒に「能登を醸す」という思いで歩めることの心強さに、勇気が湧いてきます。私たちや能登へ、たくさんの時間と心も割いてくださることの有り難さを思い、自分たちの酒造りにも一層力が入ります。

また、造り手同士の交流は素直にものづくりの楽しさに出会える機会でもあります。「水の違いや仕込み方でこうも違うものかと、酒造りの面白さを再認識できました」「また技術交流しましょう!」というやりとりが飛び交います。酒造りは楽しい。面白い。ものづくりの奥深さを純粋に味わえる喜びを、静かに爆発させる瞬間が何度もあります。

酒造りが始まると自然と気持ちも前向きになりました。酒造りが与えてくれるたくさんの喜びをひとつひとつ胸に刻んでいます。痛みを前進する力に変えよう。より良くしよう。今は肩肘張らずに、そう思えています。

委託醸造につきましては、ホームページお知らせ「委託醸造いただいた日本酒の販売について」にて詳報しております。

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皆様からの温かいご支援、励ましに心から御礼申し上げます。
皆様もどうかご安全に平穏でありますように。
これからも日本酒をお楽しみいただき、応援いただけますと大変有り難く存じます。

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