ジリジリと夏らしい日差しが照りつけています。夏の能登は、一層色濃く、美しく移ろいます。たとえば、夕暮れ時の水平線に見えるピンクと青のグラデーション。漆黒に溶ける夏の夜空。そんな美しい瞬間を目にするたび、心からの安堵を感じます。
復興レポートを書くのにもずいぶんと間があきました。やはり今期の酒造りを無事に完遂できるまではと、どこか祈るような日々を過ごしていました。そしてついに先日、今期の酒造りのゴールに辿り着くことができました。これまでに頂いたたくさんのお心寄せや励ましが前へ向く力になりました。心から感謝申し上げます。
そして、この酒造りのゴールを待って、いよいよ傷んだ木造蔵の解体が始まりました。
多くの方にとって能登半島地震はすでに遠い過去のことになっていると感じます。これほどまでに復旧に時間を要する震災も類を見ないと言われていますから、それは当然のことです。能登半島の複雑な地形のせいでもあり、一方でこの複雑な地形のおかげで私たちは得がたい安堵を与えられています。
ただ、私たちの“いま”は未だ渦中にあって、様々なことが転換していく先端にいることは疑いようもなく、それを自覚しながら目の前のことを書き留めておきたいと思います。
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●2024年度の酒造りの完遂
おかげさまで2024年産の米で醸す今期の酒造りを、無事に納めることができました。
能登半島地震以後、ほとんど休むことなく酒造りを続けてきました。ついに一息。次の酒造りが始まるまで、約2ヶ月間のインターバルです。
今年は商品ラインナップを大幅に絞ってレギュラー商品の供給の維持に努めました。自然の乳酸菌を取り込んで仕込む生酛造りや山廃造りのお酒は、蔵内の土壁が崩れた影響で空気中の菌の組成が微細に変わり、思うとおりの製造ができずにやむなく断念することになりました。木造蔵は十分な補修を施すこともできないまま足下も悪く、やはり十分な環境といえない状態でありながら、ひとりひとりができることに目を向けて走り続けてきました。


●試験醸造酒の取り組み
酒造りの終盤には2018年から続く試験醸造にも着手することができました。入社から2年目、3年目を迎えた醸造社員の試験醸造酒は、まっさらな心で取り組むフレッシュな味わいを表現し、私たちに初心を思い出させてくれます。

そして、解体される木造蔵から採取したいくつかの酵母で醸す試験醸造酒も醸し上がりました。新しい酵母で醸す酒は、今までになかった味わいを運んでくれています。先人達が積み重ねてきた思いを引き継ぐとともに、新しい酵母との出会いに再生の希望を重ねています。
●木造蔵の解体
7月中旬からは損傷した木造蔵の解体が始まりました。昭和初期、もしくは明治期に酒造りを支えてきた歴史ある蔵の骨組みがみるみる露わになる様は、日ごとに痛々しく、胸が締めつけられる思いです。つい先日まで足を踏み入れていた場所が、あっけもなく跡形も無くなって、初めて「無くなる」ということが何事かと思い知らされるようです。
木造蔵は大型の冷蔵庫を設置して貯蔵スペースとして活用していました。これの解体にともなって製品や資材の保管場所が大幅に縮小するため、お酒の瓶詰めペースを調整し、製造量を制限しています。なお、建て替え工事が完了するまで2年間の工期を予定しています。お客様にはご迷惑をお掛けすることと恐れ入りますが、ご理解いただけますと幸いです。


●珠洲市の梅畑のその後
先の復興レポートにて豪雨被害を報告した、珠洲市の梅畑についてもお話をしたいと思います。
能登を醸す|数馬酒造 復興レポート11 10/1
https://chikuha.co.jp/column/report202410/
惨状に息を飲み、ただ見守るしかなかった梅畑でしたが、流れ込んだ土砂によって栄養分が運ばれたのか、6月末には今までにないほどに多くの梅の実が成りました。足下には流木や岩石が転がり、土石流に埋もれた梅の木の枝先を時に引き上げながらの収穫となりましたが、大きな梅の実がすずなりに連なる景色は、まるで夢みたいに思えました。その実りを大切に思いながら梅酒を仕込みました。こちらも完成まで2年を要します。


梅の季節に追われる一方、地元の祭礼「あばれ祭」も盛大に行われました。能登に関わる人々の心を繋ぐ大切な時間を共有し、能登で生かし生かされる意義をまた感じます。

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能登半島地震から1年と7ヶ月。復興への足がかりは始まったばかりです。改めてこれまでたくさんの方々に温かいお心寄せをいただきましたこと、心より感謝申し上げます。
その応援があってこそ、私たちは酒造りに邁進することができました。まずは2024年度の酒造りが完遂しましたことをここに報告いたします。
今は、解体と同時に再生への決意を奮い立たせています。これからも能登の日本酒が皆様のお心を和らげますことを願っています。