こんにちは。数馬酒造・蔵人の又木です。
今回のコラムでは、数馬酒造が大学生や米農家様と連携している活動「N-project」について、3回に分けてお話しいたします。私自身が学んだこと、そして蔵人になり活かせていることなどを紹介したいと思います。
過去の連載はこちらから
≫【連載】N-projectの活動を経てvol.1|立ち上げ
≫【連載】N-projectの活動を経てvol.2|商品の完成
能登と農業と日本酒への貢献
‟若者が、能登も農業も日本酒も盛り上げる!“を掲げて活動をしましたが、その成果についてお話しします。
農業面では里山の再生と保全に取り組みました。特出したいのは耕作放棄地の開墾です。初年度の11月から翌年3月にかけて、14~15年ほど手入れをされていない土地・約300坪をメンバー自らの手で開墾しました。開墾作業をする前は、人の背丈ほどもある木や草が生い茂り、再び田んぼに戻すことが想像できないほどの場所でしたが、草木を刈り、土中に広がる根っこを掘り起こし、田んぼの形へと戻してゆきました。田んぼが蘇ることで里山の景観を守り、未来へと残していくことに繋がっています。また水田環境特A地区での無農薬・無化学肥料栽培を行い、安心安全な酒米をつくることで水田の保護に務めています。
日本酒面では生産本数である1,000本を発売前に予約のみで完売しています。海外や大手流通会社からもお声がけいただくなど反響は予想以上に大きく、翌年には初年度の3倍である3,000本を生産するに至っています。また「N-project」がきっかけで、地域密着型の商品が数馬酒造でも新しく開発されるなどの波及効果が生まれています。
能登の面では、出身地の異なる学生が能登を舞台に活動へ参加することで、土地への理解や目を向けるきっかけを与えることができたと感じています。特にメンバーの「能登のことを好きになったし、自分の地元にも目を向けるようになった」という言葉がとても感慨深く、今でも覚えています。今ではメンバーも酒造業界や発酵食品業界をはじめ、それぞれがそれぞれの舞台で活躍しています。
このように、物語のある高付加価値な商品を生み出し、農業・日本酒・能登の活性化を図ることができました。
活動を通して得られたもの、蔵人になった今に活かされていること
「N-project」の活動はとても多くのことを私に教えてくれました。それらは今も活かされています。
例えば、能登で育ったため元々愛着はありましたが、日本酒造りを通して日本酒だけではなく、土地に根付く文化や土地そのものに目を向けることができ、より深い慈しみと誇りを持つことができました。これは今でも自分の中で、お酒を通して能登のことを伝えたいという想いに繋がっています。
また、「N-project」は専門分野の異なる学生が集まっていたため、個人の得意分野を生かした組織体制をとっていましたが、専門性を生かした組織づくりは数馬酒造でも実施されており、自分自身も一社員としての役割を考えさせられます。
そして「場」を作ることの大切さについて、お披露目会という形で「Chikuha N」を発信することで、お酒を通したコミュニケーションが生まれました。活動や想いを直接話すことで、より共感してもらい、活動をブラッシュアップできる意見を多くいただくことができました。
こうした経験は店頭販売やイベントに立つ際に、お客様がどのようなお話を知りたいのか、どのような意見を持つのか、そのために商品について理解を深める必要性を教えてくれ、会社やお酒、能登のファンを作っていくことができます。
同じような意味合いですが、伝えることの大切さも「N-project」の活動から学びました。いくら活動を行なっていても、それらを発信しなければその輪も限定的なものになってしまいます。多くの方に知ってもらうことで、その取り組みの輪が広がることを実感しました。
そして、輪を広げる時には取り組みの新規性と共感性が必要になります。数馬酒造ではSDGsの取り組みをはじめとした地域連携型の商品を多数開発しており、それらをお酒として、また情報として発信していく意義を感じさせられます。
最後に、取り組みが地域に貢献するものであること、そして継続性があることも重要だと思います。活動をするうえで何かしらの成果や次に繋がるものがなければ、一時的な取り組みで終わってしまい、最終的にはまた里山が荒れ、地域は消失してしまいます。活動を持続可能にしていくためには、数馬酒造で取り組んでいる地域資源を共有し循環させるお酒造りの取り組みが重要になると感じています。
今、僕は蔵人として現場から日本酒造りに携わっていますが、そこに込められた生産者の方の想い、自分たちの想いを楽しんでいただければ嬉しく思います。それを多くの方に伝えることで、能登、農業、日本酒の振興に活かしていきたいと思います!