醸しコラム

Column

【日本酒の酒蔵が取り組むSDGs】持続可能な日本酒造りにむけて、原料米の能登産100%を達成

2021.07.29

能登産100%の酒米 | 石川県奥能登の日本酒酒蔵 数馬酒造

数馬酒造では、2020年の酒造りより、日本酒造りに使用する酒米の調達において能登産100%を達成いたしました。
これにより弊社の酒造りにおける原材料の米・水がすべて能登産です。唯一県外産の酒米を使用していたお酒の新酒出荷を機に、提供する全ての日本酒が能登産の酒米となります。

 

数馬酒造のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みについて

数馬酒造のSDGs(持続可能な開発目標)への取り組み
私たちの生業の礎は、能登の自然。
この美しい能登の里山里海を守り、次世代につなぐ。
「醸しのものづくり」で能登の魅力を高めることが私たちの使命です。

この使命を果たす手段の一つとして、2011年より能登産の原材料調達100%に取り組み始めます。
当時の経営理念に「心豊かな能登(まち)創り」というフレーズがありました。「酒造りを通じて、まちを良くしていく」ことを考えた際、過疎や地域産業の衰退に対して「能登の未来を良くしていく」行動は必然でした。

世界農業遺産に認定される美しい能登の田園風景

酒造りは自然の恵みによって営まれる産業です。
能登の地で生きる酒蔵として能登の地を豊かで持続可能な環境にしていくことは命題でもありました。
2020年には経営理念を「能登を醸す」の一言に昇華させています。地域資源の価値を最大化するものづくりによって、能登の魅力を高め続ける企業である決意を表しています。

 

全量能登産へむけて、取り組みの経緯

100%能登産の米に転換するにあたり、業界・契機・リスクヘッジの3つの背景があります。

1)日本酒業界の主流と酒造好適米

当時、県内酒蔵の主流は「酒造好適米」と呼ばれる酒造りに適した酒米を県外から仕入れて酒を仕込むことでした。兵庫県産の山田錦などは良い酒が造れると大変有名な酒米のひとつと言われ、現在も多くの酒蔵が兵庫県産の山田錦を使用しています。酒米調達の多くは酒造組合を通じて行われ、精米を済ませた酒米が納品されます。

このような業界の背景から、当時の能登で酒米を栽培する農家は少なく、能登の取引先は30年ほど前から先代社長が契約栽培を依頼していた地元農家だけでした。

また弊社は、能登で唯一100%自社精米を行う酒蔵であるため、地域の農家からの直接仕入れがしやすく、このことも原材料調達の全量能登産を実現する過程に活きていきます。

能登の酒蔵で唯一の自社精米所 | 石川県奥能登の日本酒酒蔵 数馬酒造

2)世界農業遺産の地に点在する耕作放棄地の解決策にも。全量能登産への契機

能登産の酒米へと大きく割合を増やす活路となった最大の契機は、能登にUターンして農業を起業した若き青年との出会いでした。奇しくも、現社長の高校時代の同窓生であり、二人は能登の未来を語り合う中で、未経験だった酒米の契約栽培を決意します。

同時に地域課題であった過疎化から起こる「耕作放棄地の開墾」に着手。
このような取り組みの中で、数馬酒造は「酒造りを通じて地域課題を解決できる」という強い手応えと確信を持つことができました。

現在水田に再生した耕作放棄地は東京ドーム5個分。農地は100軒以上に及ぶ地主からお借りしている土地です。
この事実が地元からの温かい応援と期待を肌で感じさせます。

以降、続々と能登の各地区の農家との出会いに恵まれ、5地区7軒の契約農家と連携しています。
数馬酒造の日本酒が飲まれるほど地域の水田が美しく保たれる循環が生まれました。

弊社社長(左)と契約農家のめうらら様(右)

3)SDGsを追求することのリスクとその回避法

一方で、日本酒の原材料である米を全て能登産へと傾倒させることへの懸念もありました。
原材料の調達地域を集約させることは災害や気候変動におけるリスクを拡大する恐れがあるからです。

しかしながら、数馬酒造では時を同じくしてかつての生業であった醤油蔵と、またリキュール蔵を、それぞれ港付近の製造場から高台へと移転させ、醸造拠点を分散することができました。
加えて、醤油事業やリキュール事業を強化することで、原材料調達における米の比重を小さくし、一つの作物に頼らない経営上のリスク軽減を図りました。

こうした経緯によって日本酒造りにおける米の全量能登産に踏み切ることとなりました。

 

能登の「地酒」として。酒米の全量能登産への難しさと意義

100%地元産のお米を使うことは農家や地域とのパートナーシップと継続性の確保について、酒蔵が少なくない責任を負うことを意味します。地域へ与える影響を自覚し、その大きさを引き受ける必要があるからです。

しかしながらそれ以上に大きな意義がありました。
ひとつは、能登産米を使った「地酒」がもたらす地域活性への後押し。それは経済的・環境的な側面のみならず、地域の人々の「誇り」にも触れる部分への価値でした。
もうひとつは、日本酒造りにおけるテロワールの実現と酒造りそのものへの「意義」の高まりです。

さらに、周辺環境への好影響も感じています。
原材料を輸送する際にかかるエネルギー「フードマイレージ」の削減。また、酒米の生産量増加に伴う、生産者様の雇用拡大や研究開発による農業技術の向上です。

こうした経験を通じて原材料の能登産への想いはさらに強くなっています。
2021年2月に発売した「竹葉 生酛純米 奥能登」は、通常日本酒の原材料に記載されない日本酒の「酵母」にまで能登産にこだわった商品です。能登のテロワールをより一層体現する数馬酒造の“能登を醸す”日本酒が始動しています。

能登産の海藻酵母で醸す「竹葉 生酛純米 奥能登」

共鳴し合う契約農家とともに
地域資源の価値を最大化するものづくり

契約農家のうち、前述の「株式会社ゆめうらら」様では、より地域特性を考慮した酒米づくりに力を入れています。
地元JA様と連携し、気象データや土壌データを分析。酒米の品種や、水田によって最適な肥料を試験開発しています。2020年度の酒造りより、この酒米別専用肥料を使用したお米での酒造りが始まりました。水田環境や酒米に影響を与える農薬はすべて不検出です。安心安全を担保しながら、品質や収量の向上を目指します。

これらの取り組みを通じて、数馬酒造は地域資源の価値を最大化するものづくりに真摯に向き合い、能登の魅力を高めようと共鳴し合う生産者とともに、皆様へ「風土を感じるおいしさ」をお届けしてまいります。

「環境特A地区」の認定を受けるゆめうらら様の水田

数馬酒造で使用する主な酒米

現在弊社で使用している酒米は、石川門(いしかわもん)、山田錦、五百万石、百万石乃白(ひゃくまんごくのしろ)、コシヒカリ、ゆめみづほなど、多岐にわたります。
なかでも、石川門、百万石乃白、ゆめみづほは石川県が独自に開発したお米です。石川県オリジナルの品種を積極的に扱うことで、弊社が目指す「地域資源の価値を最大化するものづくり」に通じ、風土を感じる、この地でしか醸すことのできない酒に仕上がるからです。

■石川門:いしかわもん

「石川独自の米で、石川でしか造れない酒を造る」という夢を実現すべく開発され、平成20年にデビューした石川県オリジナル品種です。北陸を中心に普及している酒米「五百万石」に比べ、大粒で心白も大きく、吟醸酒造りに適しているといいます。
参考文献: 酒米石川門の会/石川県酒造組合連合会

この石川門で醸す竹葉の酒は、独特のフルーティーな果実味ある香りに、余韻に伸びが出やすく、深みのある味わいに仕上がります。
お客様からは「ともすると荒々しさが出てしまう石川門ながら、この香りと、まとまりのある味わいに仕上げる数馬酒造は、石川門を扱う酒蔵の中でも飛びぬけている」とご称賛いただいたこともあります。

▼石川門を使用したお酒


 

■百万石乃白:ひゃくまんごくのしろ

石川県内の酒蔵から「大吟醸酒に適した石川県オリジナルの酒米を」と要望され、11年の歳月をかけて開発され、令和元年にデビューした新しい酒米です。
割れにくく、またタンパク質が少ないため、雑味の少ないすっきりとした味わいになるといわれています。加えて、フルーツのような香り成分を多く含むため、香り高い日本酒に仕上がります。
参考文献: 石川県オリジナル酒米品種「百万石乃白」/石川県

弊社では2018年から能登で最も早く、百万石乃白の契約農家による試験栽培と試験醸造を行いました。先だって試験醸造に着手できたため、仕込み方法の試行や熟成の経過観測などを行い、それらの経験から一定の熟成期間を設けて、味に深みを持たせています。

▼百万石乃白を使用したお酒


 

■ゆめみづほ

ゆめみづほは、平成15年に作付けが始まった石川県の早生品種。日本酒造りを目的に作られる酒造好適米ではなく、コシヒカリなどと同じ食用米です。瑞穂(みづほ)の国の夢のあるブランドとして名づけられました。
参考文献: とれたて大百科/JAグループ

食用米ではありますが、弊社では「竹葉 能登牛純米」の原料米として使用しています。
能登牛の濃厚さと相乗するよう醸す「竹葉 能登牛純米」には、もたつく甘さや雑味を抑えるためにゆめみづほを使用し、酸味やコクを出しやすくする生酛造りという酒造りの手法を用いて、すっきりとした中にもコクのある味わいを表現しました。

▼ゆめみづほを使用したお酒

 

SDGsを追求することで生まれた好影響、そしてこれから

原材料を能登産100%へ切り替えたことで、弊社の能登への想いをより伝えやすく、また「能登の地酒」であることへの説得力が増しました。

そのほかにも、能登産のお米を使用した「能登の地酒」がおいしいとお客様に喜ばれることや、品評会において高い評価を頂けることは、関係する農家の方々をはじめ、能登の地域全体を励ますことに繋がり、酒造りに大きな意義を見出しました。

今後も、能登に根ざし、醸しのものづくりを通じて能登の魅力を高める取り組みを継続してまいります。そして、この美しい自然と文化を持つ能登を次世代へ繋げてまいります。

 

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