醸しコラム

Column

能登を醸す|数馬酒造 復興レポート3 2/26~3/8

2024.03.12

この度の地震に際しまして、たくさんの温かいお心寄せを頂きまして心より感謝申し上げます。
同じく被災なさった皆様にはお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧とご安全をお祈り申し上げます。

おかげさまで復興への道を一歩ずつ力強く歩んでいます。
その様子をレポートとして綴ってまいりますので、ご覧いただけましたら幸いです。

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●2024年2月26日
リキュール蔵の清掃に着手しました。リキュール蔵は数馬酒造の本社から5分ほど車を走らせた山手の方にあります。常に頭にはよぎっていながらも日本酒蔵の片付けを優先せざるを得ず、1月1日から手つかずの状態になっていました。
蔵に入ると、梅酒を仕込んでいる大型タンクは大きく横にずれ、ゆず酒を仕込んでいた中型タンク2つは倒れていました。中のお酒は全量流れ出し、無残に転がった柚子が床一面に散乱し、爽やかな香りを虚しく充満させていました。
リキュール蔵の被害の様子
リキュール蔵も本社同様に断水が続いているため、救援に頂いたお水を使いながら、4名で丸一日をかけてきれいにしていきました。
例年でしたらリキュール蔵は6月辺りから梅酒の仕込み作業で稼働します。長年お世話になった珠洲市の元梅農家の皆様は無事と連絡が取れて安堵しておりましたが、昨年継承したばかりの珠洲市若山の梅の木畑には未だ足を運べていません。庭にある小さな梅の木には季節どおりの可憐な花がほころび始めました。ちらつく雪の中、白い花を眺めながら珠洲の梅の木を案じます。

 
●2024年2月29日
直営店舗に再開のお知らせの貼り紙を出しました。3月4日(月)から、時間を短縮して営業再開をすることにしました。ご用意できる商品数は以前の三分の一にも満たない状態です。それでも地元の方や、ご遠方からご支援にお越しの方々からお声を頂き、背中を押していただきました。同日にはオンラインショップも再開させることにしました。十分なご案内ができかねる状態でご迷惑をおかけしないかと不安はありましたが、「大丈夫ですよ。やってみましょうよ。」という社内からの力強い言葉にはっとして、そうだね、やってみようと思えました。歩み出せることに感謝です。
直営店再開
 
●2024年3月1日
数馬酒造内で醸造途中であったもろみを救出いただき、県内外の酒蔵様に圧搾と瓶詰めを施していただいた「Saved byシリーズ」の第一弾として、「竹葉 特別純米 Saved by 車多酒造」が蔵出し開始となりました。
こちらの商品はラベル貼付や梱包作業に至るまでを車多酒造様が代行してくださいました。さらに車多酒造様の敷地内に数馬酒造の蔵置所*設置をご認可いただき、この白山市の蔵置所を起点として、各お取引様へ商品を発送・配達させていただきました。
さらに車多酒造様は、代表銘柄である「天狗舞」の文字が書かれた出荷用段ボールに、ハンコで弊社銘柄の「竹葉」の文字を加えてくださいました。お受け取りいただいた酒販店様からは「天狗舞の段ボールに竹葉が入っているなんて。胸が熱くなるわ。」と、目頭を熱くして私たちと一緒に喜んでくださいました。
前例のないご支援を、繁忙期の真っ只中であるにもかかわらず、迅速かつ温かなお心でご対応してくださった車多酒造様に、尊敬と感謝の念が溢れます。
*蔵置所…酒類製造者又は酒類販売業者が、現在、酒類の販売業免許を受けている販売場以外に販売の目的で所持する酒類を貯蔵する場所を「蔵置所」といいます。(国税庁HPより)
竹葉 特別純米 Saved by 車多酒造
同日、各部門責任者と社長にて社内会議を行いました。前例や従来の方法にとらわれることなく、これからしていきたい酒造りについて、理想から逆算しながら計画していきます。全てがリセットされるような出来事があるからこそ、出来る決断もあります。
これまでは、直面する課題に取り組むことだけで精一杯でしたが、これからの事案について対話ができるような段階にきたことが、歩みを進めた証だと思えました。
進行しつつある県内外の酒蔵様への委託醸造についての事案も共有しました。ご協力いただく酒蔵様のお手をお借りしながら、能登の契約農家様に作っていただいたお米をしっかりと日本酒にしていくことも、大切な「能登を醸す」ということであると考えます。私たちも初めてのことで手探りの部分がありますが、ご協力いただく皆様とのご縁でできるものづくりはきっとたくさんの学びと喜びがあると思います。

委託醸造につきましては、ホームページお知らせ「地震後の製造状況の見通しについて 第2報」にて詳報しております。

 
 
●2024年3月4日
この日から、朝礼を震災前に行っていた形へ戻し、理念唱和を再開しました。
「経営理念 能登を醸す」
「使命 醸しのものづくりで能登の魅力を高める」
「未来像 地域のより良い未来の起点となり続ける」
毎朝、社員全員で声にしていた言葉です。改めて声が大きく揃った時、ひとつひとつの言葉が一層ずしりと胸に響きました。思いをさらに強固にするには十分すぎる出来事でした。そしてまた能登を想いながら皆でものづくりが出来ることの喜びを、幸せに思います。

この日、嬉しいご訪問がありました。契約農家である志賀町の株式会社ゆめうらら様の裏代表取締役がお見えになりました。能登半島地震を経ての再会に、固い握手と抱擁を交わし互いの無事を喜び合うと、自然と安堵の涙が浮かんでいらっしゃいました。二人は深い結びつきのビジネスパートナーであると同時に、高校時代からの旧友でもあります。
ゆめうらら様の位置する志賀町は、元日に震度7の揺れに襲われました。何事もないわけがないことは容易に想像ができますが、被害の多くには触れず「なんとしてでも米を作りますから」と、きっぱりと頼もしい言葉をくださいます。早速、今年の米作りについての話を伺いながら、弊社の新しい醸造体制の構想を共有させていただきました。心強いパートナーを前に、私たちは私たちのすべきことをしよう、と改めて思わせてくださいます。

公式オンラインショップの再開とともに、全国の皆様からたくさんのご注文がありました。おひとりおひとりが温かくお心を寄せてくださっていることを感じながら、ご用意させていただきたいと思います。
また店頭には開店と同時に、地元の方や災害支援にお越しになっている方々がお見えになります。
事務所は年末の繁忙期が突然やってきたような活気となり、地震があったことなど一瞬忘れられるようでした。

 
●2024年3月8日
ついに、震災後初めて社員全員が顔を揃えることが出来ました。ずらりと並んだ頼もしい面々。それぞれにそれぞれの困難があっても、笑顔で一堂に会することができました。それがどんなに奇跡的で有り難いことかを、今の私たちは知っています。

仕込み蔵では、今季に残されたわずかな期間でもしっかりと品質の高い日本酒が仕込めるように、冷蔵設備がある場所に酒母室と醗酵室を構えようとしています。蔵内の二度目の清掃を行いながら、3月下旬の仕込みに向けてイメージを膨らませます。
いよいよ忙しくなってきました。朝礼を終えるときびきびとそれぞれの持ち場につき、仕事を始めています。酒造りの再開が、少しずつ、近づいているように思えます。

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皆様からの温かいご支援、励ましに心から御礼申し上げます。
皆様もどうかご安全に平穏でありますように。
これからも日本酒をお楽しみいただき、応援いただけますと大変有り難く存じます。

数馬酒造オンラインショップ