醸しコラム

Column

【対談】農家とともに未来を拓く
“深化”する梅酒

2021.06.11

「竹葉 能登の梅酒」に使用される梅の実

数馬酒造の契約農家である「株式会社ゆめうらら」様には、これまで酒米をはじめ、醤油の原料となる大豆や小麦を生産いただいています。そして2021年5月、ゆめうらら様は新たな挑戦をスタートさせます。約1.5ヘクタールの耕作放棄地を開墾し、170本もの梅の木を植え、果樹の生産に乗り出します。

水稲、畑作、そして果樹。先例の少ない農業スタイルに挑む「ゆめうらら」代表の裏貴大(うらたかひろ)社長に、弊社社長数馬嘉一郎がその取り組みについて伺いました。

※このインタビューは新型コロナウィルス感染拡大防止の観点からオンラインにて行いました。

 

パートナー企業の困りごとを解消したい

数馬:裏社長に梅についてご相談したのは、約2年前のことでしたね。現在弊社に納入いただいている生産者さんの高齢化や梅の木自体の高齢化などによって、梅の実の収量減少や収量の不安定さを解消したく、「知り合いで梅の実を栽培している方は知りませんか?」とご相談したのが始まりです。
そこから、梅の栽培を始めようと決意されたのはなぜでしょうか?そもそも、果樹の栽培は初めてですか?

裏社長:弊社ではこれまで水稲から始まり、大豆、小麦、蕎麦の生産を行ってきました。果樹自体は初めての経験です。
なぜ始めようと思ったのか…それは「能登の梅酒」が消費者にとって必要とされているから。もし現在の梅農家さんに後継者がいらっしゃるなら話は別ですが、いないのなら私たちが後継者にならないと!と。パートナー企業である数馬酒造さんの困っていることを解決したいという想いが常にあるので、自然とじゃあ私たちがやろうかやらなければならないという思いになりました。
「竹葉 能登の梅酒」
数馬:弊社としても【「醸しのものづくり」で、能登の魅力を高める。】というミッションから、できる限り能登産にこだわりたく、また「能登の梅酒」と「能登」を冠するからには能登産の梅を使用することは必然でした。
ですから、御社が梅の実を生産してくださることがとても嬉しく、ゆめうらら様なら安心と社内でも喜びの声が上がりました。
酒米にも共通して言えることですが、どこのお米を仕入れるかではなく、誰が作ったお米かを私たちは重要視しています。これは変えがたいことなので、ゆめうらら様をはじめ能登の生産者の皆様には本当に感謝しています。

裏社長:ありがとうございます。
数馬:こちらこそです!

 

山奥の耕作放棄地を生きた農地へ

数馬:梅の植樹にあたり、まずは何から始められたのですか?

裏社長:まずは場所探しからです。
果樹は土壌はもとより環境が大切と言われ、適度に風通りが良く、山に囲まれて保温効果のある場所が必要です。ちょうど山奥に耕作放棄地があり、そこを何とかしたいと思っていました。そこで石川県の果樹栽培指導員の方に視察していただき、そこが果樹栽培には良い環境であるとお墨付きをいただきました。

ただ、水はけが良くなかった。果樹は樹齢が経つまでは水に弱く、水はけの良い場所での栽培が適しています。しかしながら、私たちは土壌改良のプロフェッショナル。水田を畑作地に変えた経験があるので、その点はどうにかなると思い、この地に決めました。

数馬:山奥の耕作放棄地が生きた場所になり、その過程にはこれまでの経験が随所に活かされたということですね。解消された耕作放棄地が増えたので、東京ドーム6個分?!ホームページなど更新しておかないと(笑)

裏社長:御社が清酒事業、醤油事業、リキュール事業において、地域性を高めていく と同時に、弊社も水稲、畑作、果樹栽培と農業のフィールドを広げています。米だけでなく、違う作物でも耕作放棄地を活用していくとスピード感が増しますよね。

数馬:そうですね。私たちは耕作放棄地ゼロを掲げていますが、そのことを事業の目的にはしておらず、自分たちがやりたいことを進めていった結果、耕作放棄地を解消できているというのが良いですよね。無理がないというか。会社の成長や、やりたいことと共にできている。

裏社長:なので変なプレッシャーがない。
「やらなきゃ」と耕作放棄地削減に追われているというよりは、自然と解消されていくという感覚ですね。ナチュラルなので継続していけます。
耕作放棄地

 

植樹にむけての課題 “誰かのために”が一番のモチベーション

数馬:植樹の土地が決まり、梅の木を植える段階に移りますが印象に残っていることはありますか?

裏社長:植樹地は耕作放棄地だった場所。何かが原因で耕作をやめてしまった場所なので、植えるまでにいくつかの課題がありました。
ひとつは排水対策です。先にも話しましたが、植樹地は水はけが良くなく、ぬかるんだ場所でした。立地条件は良いが、土壌条件が良くなかったということです。
そこで排水対策を施しました。水田を畑地化して、水に弱い大豆や小麦の栽培で学んだ経験があるからこそ、今回の梅植樹にすぐに着手することができました。

数馬:事業の多角化についても、米→大豆・小麦→梅という順番が良かったということでしょうか。私たちの事業展開に伴って御社にも事業拡大をお願いしていますが、それが歯車のようにうまくかみ合っているのですね。なにかに導かれているようです。
ゆめうらら様の大豆畑

裏社長:二つ目の課題は、イノシシ対策。
今回の植樹地で元々の農家さんが耕作をやめてしまった大きな要因がイノシシ被害です。
本来なら山の中で生きる野生動物たちが里山までおりて、この場所を遊び場にしていたようです。苗木が大きくなるまでは作物に被害が及ばないよう、電気柵を設置しました。

三つ目は課題とまではいきませんが、雑草の除去にも苦労しました。長く耕作されていなかったので、草が成長して木のように野生化していて。重機で一気に片付けました(笑)

あとは植えるタイミングが難しかったですね。梅の植え付けは落葉期の11月が適していて、昨年の11月に植樹を予定していました。ところが悪天候続きで植えることができず、県指導員の方と相談して苗木を越冬させて、今春の5月に植えました。

数馬:どれくらいの数を植えられたのですか?
コロナの影響がなければ、私も参加したかったです。

裏社長:170本です!(ドヤ顔)
170本はやりすぎじゃないかと県指導員の方にも言われましたが、チャレンジです。

数馬:御社のチャレンジの、ゼロから1へのふり幅が大きいことにいつも驚かされます。ゼロから一気に飛び越えて、80みたいな(笑)

裏社長:“誰かのために”となると、やる気が出ちゃう。一番のモチベーションです。
梅の植樹地

 

地域のための果樹栽培 地域でプロ集団を作る

数馬:植樹が終わり、今後のことについてもう少しお話を伺いたいと思います。
御社は米、大豆や小麦と多角化されていますが、梅の生産が他の作物の農繫期と重なることはあるのでしょうか。

裏社長:梅の収穫はだいたい6月頃で、ちょうど田植えが終わった頃。大豆や小麦の種まきと時期は重なりますが、大変というよりは作業計画を綿密に立てて、どうやって進めようかと逆に意欲が湧きます。

そもそも、梅の生産に着手しようと思った時に、収穫は地元のシルバーセンターの方に、また木の剪定は木を触るプロである造園業の方にお願いできないだろうかと考えていました。
弊社の得意分野は、肥料の散布や病害虫などの予防と駆除、下草刈りなど。互いの強みを活かして、果樹園地を維持していきたいと思っています。
というのも、私たちは果樹栽培のプロになりたいわけではなく、果樹のプロ集団として一個の梅の実を育て上げたい。できないことはそれぞれのプロに任せる。その方が、自分達が一から学ぶより良いと思うからです。

また、65歳で定年を迎え、働きたいが働く場所がない方や、自宅に庭園を造る家庭が減少し、仕事が減った造園業の方の仕事を生み出すことにも繋がります。

数馬:今の世の中、長く働く方が増えて、全体の労働年齢が上がってきています。しかしながら65歳で定年を迎える方が多い。そういう方々の活躍の場が増えるのはとても良いことですね。

裏社長:弊社にしても、御社にしても(新しく入社する)社員の平均年齢が圧倒的に若い 。働く人の年齢が上がっているという感覚は、他の企業と比べると理解しづらいかもしれません。
ですが、地域の問題は深刻です。果樹を手掛けることで、地域の方々がさらに活躍できる場所を増やしたいという想いが、果樹栽培を後押ししました。

 

未来を見据えることができる相手だから

数馬:次々と熱い想いが飛び出しますね。
他にも梅の栽培に着手いただいた想いや意義があれば教えてください。

裏社長:実は果樹栽培には少しネガティブな想いもありました。
2017年まで実施された国の減反政策(米の生産量抑制)に応じるため、 私たちの地域では生産意欲がないにもかかわらず仕方なく柿を植えた水田がありました。結果、それが耕作放棄地に繋がった過去があります。悲しいことです。ですから今回の果樹栽培では、耕作放棄地をきれいに整備して、人が来たくなるような農場にしたいと思っています。
例えば子どもたちが収穫体験をして梅干を作ったり、梅の木の花を見にピクニックしたりと、自然と触れ合える機会を増やしてあげたい。5年で実がなるのですが、5年後には耕作放棄地だった場所を梅の花でいっぱいにしたく、その様子がすでに脳内でイメージできています。

数馬:先ほどの、地域に仕事を生み出したいという想いも含め、高齢者から幼児まで幅広い世代の方の貢献に繋がりますね。地域への波及効果も大きく、素晴らしいです。

裏社長:いやいや、こうして新しいことに取り組むことができるのは御社があってこそ。
梅の収穫が始まる5年後、そしてその先の10年後を見据えることができるから、新しくチャレンジできるのです。

また、梅酒の原料としての梅の実であることが、チャレンジのハードルの高さを緩和してくれています。製品として梅の姿が残るものだったら、粒がそろったピカピカの梅を作らないといけない。梅酒に使われるということで、品種のポテンシャルを最大限出すことに集中できる。かつ、オーガニックにできるだけ近づけたいという想いもありました。

数馬:そうはいっても、必ず良い品質のものしか出してくれないじゃないですか!5年後の納入を楽しみにしています。
梅酒に使用される梅の実
 

業界イノベーションを起こす新たな挑戦

数馬:ところで裏社長は弊社の梅酒を飲んだことがありますか?

裏社長:何をおっしゃる。大好きですから!
今回の梅の栽培を機に、地域の方へ勧められるアイテムが増えて嬉しく思います。どんなに日本酒がおいしくても、日本酒に苦手意識のある方や若者には、入り口が日本酒だと難しい時もあると思います。そんな時にリキュールという切り口は入りやすいと思います。

数馬:おかげさまで、一度口にすると忘れがたいといったお声もいただき、リピーターの多い梅酒です。この梅酒を通して、私たちの耕作放棄地に対する取り組みをより多くの方に知ってもらえ、大学生など若者が学べるフィールドがますます広がることも嬉しく思います。

裏社長:そうですね。私たちもこの果樹栽培を通じてさらなる業界イノベーションを起こしたいと考えています。詳細はまだ話せませんが、「なぜ果樹農家が大変なのか?」に対して取り組んでいきます。ただ農作物を作るのではなく、一歩踏み込んで。農家も持続可能なものづくりに参加し、未来へつなげることが私たちの使命だと思っています。

数馬:私たちも農家さんや携わってくださる皆様の想いを胸に、地域を活かした、地域の魅力を高めるものづくりに引き続き取り組んでまいります。御社の存在は必要不可欠ですので、これからも共に高め合ってゆけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
弊社社長と裏社長
 

――インタビューの中で、両者の口からしきりと聞かれたのが「自然とそうなった」という言葉。何かに導かれているような、そうなる運命であったような。それはまるで正しいことをしていると気づかされているよう。自分たちの思い描く未来像がはっきりとしているからこそ、その道筋が見えるのかもしれません。

両者が手を取り、100%能登産の、唯一無二の味を一緒に作り上げてまいります。新しい梅酒の完成はまだ少し先になりますが、お楽しみにお待ちくださいませ。

 

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